ブッダ(仏陀)は、今から2500年ほど前(紀元前5世紀ごろ)に実在しました。
本名はゴータマ・シッダッタで、日本では「お釈迦(しゃか)様」とも呼ばれます。
「ブッダ」とは、「悟った人」という意味です。
ブッダは、仏教を始めた人として有名です。
ただ、一口に「仏教」と言っても、長い時間の中でとても変化しています。
ブッダが直接教えたことは、たくさんのお経の中の初めのころのものに書かれています。
私は、ブッダ自身は、宗教家というより哲学者に近かったと思っています。
もちろん、その当時は宗教と哲学の境目そのものがあいまいですが。
ブッダの世界観は、次のようなものです。
①世界のすべては、互いに関係しあっている。
②それぞれが影響し合いながら、いつも変化していく。
③だから、絶対変わらないとこだわったり、どうしても手に入れなければならないものはない。
その上で、ブッダは、次のような生き方のコツを教えました。
①確かに、この世は苦しみや悩みに満ちている。
②しかし、それは自分自身のこだわりや欲望がつくりだすものだ。
③だから、こだわりや欲望を捨てれば、苦しみや悩みもなくなる。
④そのために、日ごろから正しい行いをするべきだ。
そして、「正しい行い」を次のとおり教えました。
①自己中心でものを見ない。
②自己中心に考えない。
③嘘や悪口を言わない。
④自己中心な行いをしない。
⑤規則正しい健康な生活を送る。
⑥こつこつと努力し続ける。
⑦誘惑や雑音にまどわされない。
⑧精神の統一を心がける。
あるとき、ブッダは、弟子から「死後の世界はありますか?」と聞かれました。
これに対し、「それを聞いてどうする? もっと目の前のことに向き合いなさい」と教えました。
ここにも、ブッダの哲学のあり方がよくあらわれています。
ブッダ哲学の目的は、今生きている私たちの、心の平安と豊かさにあります。
そのために、今生きている現実に目を向け、生き方のコツや正しい行いを教えました。
その教えは簡潔ですが奥が深く、まさに「悟った人」と呼ばれるのにふさわしいものです。
その分、ブッダは、あえて世界の本質のようなことに深入りしませんでした。
抽象的な哲学や、きびしい修行ではなく、現実の生活に直接役立つことを重視しました。
それを、性別や身分を問わず、さまざまな人に役立てようとしました。
それは、今の私たちの目から見ても、たいへん進んだ発想です。
ただ、実は、「世界の本質を見きわめること」も、「生き方のノウハウ」と同じくらい必要です。
いわば、「世界の本質」が縦糸です。そこに「生き方のノウハウ」が横糸として織り込まれます。
少なくとも複雑な現代社会では、前者を土台として理解してこそ、後者が威力を発揮します。
「世界の本質」をしっかり理解するほど、「生き方のノウハウ」も身につきやすくなります。
「世界の本質」を知るうえで、上に述べたブッダの世界観がたいへん参考になります。
ブッダの世界観には、絶えず変化しながらも全体としての調和を保った宇宙があります。
ブッダ哲学のすごさは、「宇宙の本質」をとらえるヒントも与えている点にあると思います。
では、その「宇宙の本質」はどんなもの、どんなイメージなのでしょうか?
これは、心の平安と豊かさを目指したブッダが、現代の私たちに残してくれた問いかけです。