理想

「理想」とは、辞書によると、「それ以上望むところのない完全なもの」です。
そうあってほしいと思う最高の状態です。
ひとは、それを心に思いえがきます。そして、それを求めつづけます。

ところが、同じテーマであっても、「理想」の姿・内容は、思いえがく人ごとにさまざまです。
「うまく言葉にあらわせないけど、確かにそれはあるんだ」などと言われることもあります。

理想の三角形とは?
理想の丸とは?
理想の体型とは?
理想の政治とは?
理想の○○とは?

私は、理想は「ある」けれど「ない」ものだと思います。
理想は「ある」とは、ひとには、完全なものを求める欲求がいつもあるという意味です。
理想が「ない」とは、理想には、誰もが納得するはっきり定まった中身はないという意味です。

つまり、「理想」とは、すべてのひとが持っている、心にわきあがる欲求そのものだと言えます。
そのときどきの欲求を、なんだか形あるもののようにあらわそうとしたものが「理想」です。
心の中にあらわす。言葉にあらわす。絵にあらわす。音楽にあらわす。方法はいろいろです。
ただ、どこまでいっても完全にあらわしつくすことはできません。

ですから、理想はただのまぼろしではありません。理想には、欲求という本体があります。
しかし、その本体を超えて理想を「理想化」するのは危険です。
自分の欲求を何かの形にして、しかもそれだけが理想の姿だと決めてかかるのは危険です。

「理想」をもつことは、多くのひとにとって生きる目標や支えとなります。
しかし、理想の本体が欲求であり、それ以上でも以下でもないと知ることが重要です。
そうすれば、理想はひとそれぞれがもつものだということに気づきます。
同じテーマについて、一人ひとりが違う理想をもっていてもおかしくないことに気づきます。

「理想」に対して広い心をもつこと。
一人ひとりの「理想」を尊重すること。
自分の「理想」を他人に押しつけないこと。
今さかんに言われている「多様性」の基本がここにあります。
民主主義の基本もここにあります。
法の精神の基本もここにあります。

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