「リーガルマインド」を形づくる要素の第5は、現実に起きていること(事実)をどこまでも観察していった先にあるのは、「相手の気持ち・考え」だということです。「リーガルマインド」は、自然科学ではなく人間社会で活かされるものです。絶妙な「バランス」がそのアウトプットです。それは人間関係の天びんやシーソーのようなものです。自分がその一方にいるとすれば、必ず相手がもう一方にいます。あるいは、2人がそれぞれの天びんの皿の上に乗っています。そのような自分以外の人(たち)の「気持ち・考え」を、どこまで自分のことのように受けとめることができるかです。カントというドイツの哲学者は、「判断力批判」という本の中で、もの事を判断するときは、①自分で考えること、②他のあらゆる人の立場で考えること、③つねに自分と一致して考えることと言っています(同書第40節)。
なお、「相手の気持ち・考え」は、「この人は何を考えているんだろう」といった形で、それそのものを「知る」ことは困難です。他人の心に直接ふみ込むことはできません。あくまで現実に起きていること(事実)の徹底的な観察をつうじて自然と浮かび上がる、その意味で「受けとめた」ものでなければなりません。
私は、目の前の相手や、人間関係が問題となっている人たちの気持ち・考えが自分のことのようにわかるくらいまで現実に起きた事実を徹底的に観察すると、自然と、「法律の相対性理論」で述べたようなバランス感覚が生じてくると思っています。そう信じて観察することを目指しています。
法律の条文などからスタートして、以上で述べたステップを経験しながら、最後にこのバランス感覚にたどりつく全体こそが、「リーガルマインド」と呼ばれるものです。ですので、「リーガルマインド」のバランス感覚とは、現実の事実をとおして、善いこともそうでないことも含めて、「自分のことのように他人を知ること」だと言えます。